13色・素材・目合。使う網が漁のすべてを決める「定置網はクモの巣と同じ。決まった場所に網を設置したら魚が来るのを待つのが仕事なんです。あとは船で沖まで出て、網をたぐり寄せたら魚だけ獲り、網を戻して帰ってくる。これを毎日繰り返します。」そう語るのは定置部門で気仙沼地区を担当する吉田だ。「マグロのはえ縄船と違って、自分たちで魚を狙いに行くことができない。だから私たちの世界では『消極的漁法』って呼ばれたりもします。他の漁よりも楽なように聞こえますが、実際はそうじゃない。漁獲量は海況によって大きく左右されるし、台風が来れば漁具は壊されてしまう。漁師さんにとっては毎日が戦いなんです。」日々、網を繕いながら行われる定置網漁。漁師たちにとって、海に敷かれた網は命より大切なものなのだ。「漁師さんには『安くて、丈夫で、魚が獲れんだったらいいべ』と言われるけど、そう簡単にはいきません。どこの海でも使える網っていうのはありませんから。」使う人はもちろん、魚種によっても取り扱う網は違ってくる。「大槻網さんでは、夏だとカツオの一本釣りで餌に使うイワシを獲るために目合が13・8㎜のものを、冬だったら鮭を獲るために目合が75㎜のものを使います。」担当する漁場の網の材質や太さ、色…。すべてを把握しておくことは、定置部門で仕事をする上で必要不可欠。しかし昔は、失敗をしたこともあったという。「大船渡から気仙沼の営業に異動して来た頃、大槻網さんからの依頼を受けて持っていった網が、素材も目合も同じなのに色だけ違ってて。すごく怒られたんですよね。たかが色、されど色。もし魚が獲れなかったら…。漁師さんにとっては死活問題なんです。そこまで考えて資材を運ぶのが私たちの仕事なんだって。まぁ、ふたをあければ大漁だったので結果オーライだったんですけど(笑)。」震災の時、残された錨綱を頼りに再開した、網の設置「震災ではいろんなものが流された。ここの漁場も、今見えている網がすべて流されたような状態で。」と話す大槻網・代表取締役の熊谷さん。「網を元の位置に戻すのが一番大変だったかな。もともと図面がない箇所もあるし、資料があっても流されちまって。手がかりも何もなかったんだよ。アサヤさんはうちの大謀と沖に行って『ここじゃねぇか』って、毎日日が暮れるまで付き合ってくれた。海の底で錨綱が何本か残っているのが見つかったときは奇跡だと思ったね。俺はその時社長になったばかりで、何もわからなかった。けど、アサヤさんがいろいろ手伝ってくれたから乗り切れたんだよ。」無事、網の修復を終えた大槻網さんは平成23年の10月に漁を再開した。定置部門
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