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20一方で、震災の時の津波で、機械が流されてしまって、北海道などから中古で買い付けてきた機械を修理することも最近増えた。北海道では稚貝という小さな貝を使うが、この辺りでは半成貝(生後1年半)を使うから、ホタテの成長状態が違う。そのあたりも当然機械の仕様に影響してくる。「北海道と三陸でホタテの貝の大きさも厚みも違うから、そのままでは使えない。だから、三陸仕様に合わせて、補強、改造する。例えば、ホタテが縦に並んでコンベアみたいに送られてくる箇所があるんだけど、コンベア上部の枠にあたらないように貝のかたちに沿って丸く削ったりしていくのよ。」三陸のホタテ養殖ならではの事情もあり、また、お客さんごとの好み・こだわりもある。海は変化する。その都度、機械も調整していく機械によってそれぞれ個体差もある。貝を押さえる強さも機械によって微妙に異なる。「穴をあけるときにホタテを押さえる力の強さも機械によって違ってくる。同じ機械でも使っているうちに押さえの力が弱ってくることもある。扱う貝の大きさ、厚みもみんな微妙に違う。機械も人間と同じで個体差がある。」常に変化する海で、生きているものと向き合っている漁師が扱う機械をメンテナンスするのだから、お客さんごと、機械ごとに、その都度合わせていくしかない。入社4年目の小松には、この仕事をする上で大切にしていることがある。「とにかく脳みそを殺さないこと。マニュアルに沿っていればできる仕事じゃないので、なんでこうなっているのか?という理由を常に考えることを心がけています。」お客さんが使うスピードによっても調整が変わる基本的に、機械が工場に運ばれてきたときと同じ状態にするが、その年の貝の大きさ・厚みによって、微妙に位置がズレる。「最後はやっぱり現場で調整。お客さんごとに注文が全然違うから、指先の感覚だけがたより。でも、数をこなせば、ここが悪いんだなとか、こうすればうまくいきそうという感覚がつかめてくる。」その年の貝の見本が送られてきて、これに合わせて調整してほしいと言われることもある。「スピードがゆっくりの時と速い時で微妙に穴位置がズレる。だから、現場でお客さんが使うスピードで何枚か穴をあけてもらいながら、確認していく。もう少し内側とか外側とか微調整していく。工場で何度穴位置を合わせても、結局手回しだからゆっくりになってしまってダメ。実際に現場でやると1分間に100回も穴をあけるくらい速いから。結局現場でお客さんがいい位置に合わせていくのが一番。話しながら調整したほうが、お客さんの好みやクセがわかってくるから、絶対その方がいい。」後輩、部下にも実際にやってもらうのが一番の近道。「力の入れ加減とか、位置調整とかって実際にやってみないとわからない。例えば、ボルトのねじ一本締めるにも、締めすぎるとボルトが切れちゃう。締めなさすぎると使っているうちに緩んでくる。ほどよく締めないといけない。これひとつとっても、初めての人には全然わからない。」現場で、体で覚える。この仕事のキモかも知れない。15時になると一服タイム。みんな一旦作業をとめ、休憩室で世間話に花を咲かせる。馬場 儀則昭和63年アサヤ入社。前職では旋盤加工やエンジンをやっていたこともあり、電気まわりの機械はほとんど修理する。ホタテ関連の機械を担当することが多い。小松 利旭平成24年アサヤ入社。前職ではアルミの加工を行なう機械系のエンジニアだった。コンマ何mmという調整の感覚を指先が覚えているという。工場内には、鉄工課の社員がつくったオリジナルの器具がたくさん。このチリトリも階上工場オリジナルのもの。実際に現場に足を運んでいるとホタテのことにも詳しくなってくる。ホタテの貝には白い方と黒い方があるとか。必ず1カ所欠けて1枚になっているところがあって、ここで穴をあけるとか。

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