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24どこまでこだわってやるか。常に時間との闘いこの仕事で難しいことのひとつは「どこまでやるか」の判断。「同じとこばかり時間をかけて作業していたら納期に間に合わなくなる。錆び加減とかを見て瞬時にどのくらい手をかければよいのかを判断していかなければいけない。全体の流れを見ながら、ここはこのくらいまでにしておくか、などそのあたりのさじ加減は常に意識してやっている。昔、丁寧にやりすぎてよく叱られた。基本的に時間に追われながらの作業だから、どんどんこなしていかないといけないのに、ずっと同じところばかりに時間をかけているとそりゃ怒られるよね。時間と仕上がりのバランスを自分で判断して進めていかないといけない。こだわりたいからといって、ずっと同じところでこだわって時間かけてやっててもダメ。自分一人でやっているわけでもないし、趣味でつくっているわけでもない。自己満足じゃいけない。仲間やお客さんあってのものだから。」いかにきれいに塗れるか。塗装は職人仕事塗装は職人仕事。ものになるまで5年、10年とかかる。「神経使って細かく削ってくれる人もいれば、何年経ってもできない人も正直いる。ハングリーな気持ちの人間でないとつとまらない仕事だね。刷毛で塗るにしても、スプレーで塗るにしても、とにかくきれいに塗れるように。ダレとか、ムラとかができないように一発で塗っていく。実践で覚えていくしかない。もっともっときれいに塗りたいっていう気持ちがあるかないか。その差で仕上がりが全然違ってくる。」塗料をきれいに塗れるかどうかで表面の抵抗が変わり、船の速力も変わってくる。いい加減な仕事は許されない。「船は基本道具。どれだけきれいに塗っても、また海にでれば、塗装前と同じような状態になって戻ってくる。ただ、常にちゃんと塗装しておかないと錆びが進む。船の寿命も縮む。だから、次の年には錆びている箇所が減っていたとなるくらいにできるよう、キチッと仕事をしていかないとという気持ちは強い。塗って、1ヶ月で錆びてしまったとなると、話にならないからね。漁師がよくよく調べて『ここ、なんか仕事した?』ってぐらい平らなのがベスト。」この仕事の醍醐味とは何だろうか。「やっぱり塗装屋だから、きれいに塗れたときが一番うれしいね。自分が神経質な性格だから、仕事の粗があると気になってしまって。もっときれいにできるのにって思ってしまう。最後完成してきれいになった船体をみると、がんばったかいがあったなといつも思う。」昔は足場なんか組まず、5mmくらいのローブを2本束ねて、長い木の板を吊るして、吊り足場でずっと作業をやっていた。震災後に、足場をちゃんと組むようになった。菅原 一塗装課工場長。この道30年以上のベテラン。仕事の細かいところまできっちり仕上げないと気が済まない職人気質。米倉 透平成28年アサヤ入社。入社してすぐに夏の繁忙期を迎え、無我夢中で乗り切った。震災直後は新造船をやっていた。震災で建造中の船が、木戸浦造船所の方まで流されて、横になっていた。でも、幸いたいした損傷がなかったから、吉田造船所に戻して、作業を続けることができた。

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