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42アサヤが築いてきた漁師との信頼関係。それが成功へと導いた、ゼロからの工場立ち上げ物語。昭和8年生まれ。昭和59年、越喜来工場の立ち上げに関わる。麻屋漁網の顧問に就任し、その後10年以上に渡り、網の仕立ての技術指導を担当。その後、越喜来漁協の組合長を歴任。ゼロから網の仕立てを指導いただいた大先生。中嶋 久吉実際に現場でどう使われるのかを見れば、おのずと、いい網が仕立てられる。インタビュー 網は網屋、仕立てはアサヤ。網の仕立てを行なう越喜来工場の立ち上げ・技術指導に尽力してきた中嶋。アサヤとの付き合いは、漁協の水夫だった頃にさかのぼる。「昔は、天然繊維の麻をアサヤの染め工場に持っていってコールタールで染めていました。当時は、漁師が50人ぐらいでつくって、海に入れるのが当たり前。網屋さんはあるが、漁法や漁場に合わせたかたちに網を仕上げてくれる仕立て屋さんは存在しなかった。漁師は自らで道具をつくる必要があった。そこで、アサヤが仕立てを請け負うようになった。」当時、アサヤには仕立てのやり方がわかるものは一人もいなかった。越喜来の工場を建てる際、中嶋を頼り、建物の設計から何から全部相談した。そこから中嶋との関係が深まっていった。「工場ができたのが昭和57年。越喜来漁協自営小壁漁場の大謀を辞めて、町会議員になった頃でしたが、アサヤからの相談事にはできるかぎり応えるようにしていた。立ち上げから2~3年して、今度は唐丹の大謀に。いろいろ現場を教えながら、そこでアサヤさんも教えました。明日は唐丹の漁協に来て手伝えと言って。その頃は、工員さんが30人ぐらいいて、みんな地元崎浜のあたりの奥さんだったり、引退した漁師さんだったり。みんな網の仕立てに関しては素人でしたが、基本をしっかり教えていくと、みるみる仕立てが上達していきました。」工場立ち上げ後の昭和59年は、「7次の切り替え」と呼ばれる大型定置網の免許の更新があった年。バブル景気とも重なり、漁場が増え、新しく網を仕立てるところが多く、注文が殺到した。「漁師さんも魚を獲る方で忙しくなり、網の仕立てまで出来なくなりました。それで、アサヤに頼まれるように。唐丹に行くと網は網屋で買って、仕立てはアサヤだとなっていきました。」右も左もわからない所からのスタートだったが、漁師の味方にもなるし、アサヤにとってもいい。網の仕立ての仕事はそうやって始まった。「アサヤの先代の営業担当が、浜を歩いて歩いてお客さんを開拓してきた。だから、仕立ての実績がなくても、理解してくれた人たちが多かったんだと思う。やっぱり、先代達のそうした下積み、努力があってのものですね。」 間違った仕立ては絶対にやるな。中嶋の指導はまず基本を徹底的に教え込むところから始まる。「最初に教えたのは網を編む編あばり針の使い方。みんな加減がわからず、力任せにやっていた。手にマメがでたり、血が出たり。ギュッと握ってしまうと5本の指の自由がきかなくなって能率が上がらない。だから、手のひらに卵が入るような感覚で、余裕を持たしておく。みんな素直だから、言われた事をマスターすれば能率がグンと上がった。3年ぐらい経った頃には、かなり上達していた。やはり、大事なのは基本。応用は、基本ができてないとわからない。それだけは、口を酸っぱくして言いました。あと、よく言っていたのは、漁師の経営の負担にならない網をつくるということ。ロープは、ただ太ければいいというもんじゃない。例えば20mmで保つのを、メーカーさんは安心のためにと30mmつけたりする。すると重くなる。実際にどう使われるのかに目を向けないと。こういう潮の流れの時は、どうやって網を付けるのか。設計図の上では、真っ直ぐなんだけど、海で吊るされれば、網は垂れ下がる。そこにも計算式がある。海中での網のたるみ具合まで、わかってる人はほとんどいない。ここまで計算して設計してるのだったら、アサヤの言う事は間違いない、となるわけです。」中嶋の技術指導が始まってもう35年が経つ。定置網の経営者の方々からは、アサヤの仕立てはいいという事で評判がたつまでになった。「とにかく、網はアサヤで仕立てる。岩手県のどこに注文されても、越喜来の工場でつくって納めるというぐらいの気概で指導しました。間違った仕立てはやるなと厳しく教えました。今でもアサヤの工場で仕立てる網はダメだって言われた事はない。アサヤの先代からの言葉に『手廻しせねば、雨が降る』というのがあります。いろんな起こるかもしれないと、先に手を廻しておきなさいと。ほったらかしておいたら、雨が降って台無しになってしまうという事。やれる時にやれ。売る時に売れ。いつ何時も準備を怠るなということです。」いまは、中嶋の教えを受け継ぎ、当時の弟子たちが次の世代に教えているところだ。元越喜来漁業協同組合 代表理事組合長

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